生命を育むマクロビオティック


  田村歯科医院院長 田村 享生



はじめに

 マクロピオティックとは、MACRO=大きい・長い、BlO=生命、TlQUE=術・学の3つの言葉から成り、「おおいなる生命の法・良く生きるための理論と方法」という意味であり、桜沢如一の造語である。
 「食」を重視する長寿健康法として理解されがちだが、それだけにとどまらず、宇宙的視野に立った哲学でもある。
 この理論を完成させた桜沢如一(1893〜1966)は、石塚左玄の食養法と中国の陰陽論を統合発展させ、全人類の幸福と真の世界平和を目指し、食養指導家・思想家として世界をまたにかけて活躍した。
 現在、日本は飽食の時代を迎え、西洋式栄養学が主流となり、マクロヒオティックは特殊な考え方であるかのように扱われるようになってしまった。しかしマグロビオティックの理念は日本CI協会・正食協会によって地道に継承されている。また米国においては、マクロビオティックの知名度はかなり高く、例えはカーター元大統領、クリントン大統領やマドンナ、マイケル・ジャクソン、トム・クルーズなとの著名人を筆頭に約200万人が実践している。



マクロビオティックの基本理念

◎独自の陰陽哲学
 桜沢如一は、森羅万象が陰と陽の二つの性質によって成り立っているとする東洋の伝統的な世界観「陰陽思想」を「易経」や「老子道徳経」をもとに整理した。これがマクロビオティックの根本原理であり、宇宙的哲学と言われる所以である。
「すべてのものは唯一なる無限から分化した。
 一なる無限は、永遠に変化する相補的、対立的な性質の陰と陽として現れる」とされている。
 マクロピオティックの陰陽の分類方法は、中国の陰陽論とは多少異なっており、オリジナルの陰陽観と考えたほうがよいだろう。桜沢は、この陰陽理論を食物にも応用し、陰陽のバランスが大事であると説いている。また、季節・体質にあわせて食物・調理法を選ぶことも陰陽理論から説明している(食物陰陽表参照)

◎身土不二
 「身体(身)と環境(土)は、切り離すことができない(不二)」
 その土地その季節に自然に取れるものを食べることで、気候風土に適応し健康を保つことができる。日本では、先祖代々日常的に食べてきた伝統食を基本とすることになる。
 現在ではハウス栽培の普及により、季節を無視して一年中同じ物を食べ、海外からの輸入物も氾濫しているが、これは、健康を害するぱかりか、エネルギーの浪費及び地球環境破壊にもつながるのである。

◎一物全体
 「全体は全体としてあるとき、部分の総和を上回る特別な働きをする」
 食べ物についてもこの考えをあてはめ、一つのものを丸ごと食べること、皮ごと根も葉もできるだけ利用することをすすめている。
 特に種子や実は、そのまま次の世代を生み出す生命力に満ちている.穀物の皮や胚、野菜の皮には、それ以外の所にはないような栄養素が含まれていたり、皮や芯などには良質な食物繊維か豊富であることもわかってきている。
 「食べる」ということは、そのものの生命をいただくことなのだから、決して無駄にしてはならないという意味もあるだろう。

◎穀物菜食
 生物学的に人類が何を食べてきたかを知る手がかりとして歯の構成があげられる(歯の構成図参照)。人の歯は全部で32本あり、臼歯が大小合わせて20本、切歯が8本、犬歯が4本である。臼歯は主に穀物をすりつぶすため、切歯は野菜類を切るため、犬歯は肉や魚を食いちぎるための歯である。歯の種類の割合で食物を摂ってきたと考えると、8分の5が穀類、8分の2が野菜・海草、8分の1が動物性の食物となる。
 このことから、人にとって最も大事なのは穀類であり、次に野菜・海草類であるとする。
 また、人間の進化の過程を見ても、人は動物性食物の摂取の必要性は低いと考えられる。動物性食物は消化吸収の面でも内臓に負担をかけることもわかってきている。さらに、霊性を高める(精神状態を安定向上させる)という意味からも、動物性食物は避けるべきだとされている。歴史的に、肉食の多い民族ほど争いが多いとも言われている。地球的視野に立つと、畜肉動物に食べさせるだけの穀物を人間が食べるようにすれば、飢餓問題の解決にも結ぴつくという試算もある。
 前出の「身土不二」「一物全体」の意味からも、玄米を食べることが重視されている。
エネルギー源のデンプン質だけでなく、タンパク質・脂質・ビタミン・ミネラル・食物繊維等を含み、栄養学的にも優れており、体内毒素を排出する成分や精神を安定させる成分なども含まれていることがわかってきたが、最も重要なのは、玄米及び未精白の穀物は次の世代を生むことかできる(生きている、生命力がある)ということである。
 ひえ・あわ・きぴなどの雑穀も盛んに取り入れている。

◎純正自然食品
 無添加・無農薬有機栽培・伝統製法による食品をすすめている。
 食品添加物や薬品を使った食品、農薬・化学肥料を使った農産物、極端に精製されたもの、化学抽出・化学合成されたものを避けることも重要である。最近では.ポストハーベスト・遺伝子組み換え食品・放射線照射・環境ホルモン・ダイオキシンなどにも言及している。このような食品を避けることにより、自分や家族の健康を守るだけではなく、地球環境を浄化し、産業構造を改革して、すべての人と地球を守ることにもなるのてある。
 マクロビオティックでは塩も重要視している。体液のミネラル成分比を適切に保つために、海水から作られた天然海塩をすすめている。法律的に禁止されていた天然塩の流通を解除させたのは、マクロビオティック研究者・実践者による長年の運動と研究の成果でもある。また、高血圧などの場合でも極端な滅塩はすすめない。化学塩をやめて天然塩を適量摂ることを説いている。
 調味料も、良い材料を用いた昔ながらの天然醸造で作られたものをすすめている。
 砂糖については、極陰性て、カルシウム代謝に負担を与え、ピタミン・ミネラルを消耗し、血行を悪くさせ、身体にも精神にも悪影響を及ぼすとし、厳しく規制している。
 油は、圧搾法てしぼられた胡麻油か菜種油だが、ごく少量でよいとする。

◎調理法
 1.野菜の皮はむかない。芯や根も工夫して食べる。
 2.なるべくゆでこぼさない。アクを抜かない。
 3.体質や体調・季節によって調理法を調節する。熱を加えることによって陽性度が増し、冷やせぱ陰性度が増す。
 4:心を込めて作る。作る人の思いが反映する。
 5.献立の中心は穀類。おかずは少なめに主食の半分くらい。葉菜・果莱・根菜・海草類をバランスよく。
   動物性食物は、小魚・近海魚を少量。体質・体調によって献立の割合も変わってくる。
 6.調理器具・食器類も自然素材を使用する。

◎食事の留意点
 まず、食べ物をよく噛むこと。玄米なら、一口60〜100回。病人は200〜300回、口に入れたら箸を置くとよいとしている。
 唾液の分泌により、消化を助けるばかりか殺菌、抗がん、毒素分解、口中のペーハーのバランスをとる作用もある。また、咀嚼によって顎を動かすことで、血行が促進され、脳をはじめ首・肩・全身の血流が増えることもわかってきた。
 食べる量を「腹八分目」におさえておくのは言うまでもないが、朝食はとらずに、l日2食を理想としている。
 精神面では、ゆっくり味わうことで、微妙な味覚を取り戻し、体の要求を聴くことができるようになり、料理を作ってくれた人・素材を作ってくれた人・自然の恵みに思いを巡らせ、感謝の念を持つことが大事である。


現代医学的食事療法との違い

 マクロピオティックでは、食べ物を食べながら生じた病気なのだから、食べ物によって治すのが自然であるという考え方に立っている。
 現代医学的食事療法のように、カロリー計算は行なわない。また、個々の栄養素には格別注目してはいない。「身土不二」「穀物菜食」の考えから、現代栄養学がすすめる肉・魚・卵・乳製品については異論を唱える。
 症状に応じて、何をどう食べれはよいかという指導、食物を使った手当て法を行う。
 現代栄養学では[食」をエネルギー補給源と考え、生産・流通過程で「食物」を品物としてとらえているが、マクロビオティックでは「食は命なり。生命のもとは、日光と空気と水と、それらの結晶である食物である」と説く。「食物」は単なるモノではなく「いのち」あるものなのだ。それ故に食物の「生命力」を重視している。この点が現代栄養学との大きな違いであろう。
 そもそも、現代社会で「食物」をモノとして扱うことにより、農薬・遺伝子組み換え・放射線照射・添加物等々の問題が発生しているのではなかろうか。


マクロビオティックの問題点

 1.指導者よる差が大きい
   油・粉食・健康食品等の摂取については意見がわかれるとこるであり、かたくなで厳密に過ぎる指導もある。
 2.特定の食物のみを推奨したり、禁止したりする。玄米至上主義で、一般食を邪食として忌み嫌う傾向がある。
 3.一歩間違うと、難行苦行の療法になる。
 4.かたくなに過ぎると一般社会と協調できなくなる。家族の理解を得られないと家庭不和を招くこともある。
 5.ただもくもくと一口100回噛むという食べ方では、会話しながら食事を楽しむことができない。
 6.宗教と勘違いされる恐れがある.


おわりに

 古来、「医食同源」という言葉もある。また、「食」という漢字を分解すると「人」と「良」にわかれ、「食は人を良くする」と解釈することができる。
 なぜ「食」を重視するかについて、桜沢は次のように述べている。
 「一切の生命現象は、肉体的にもあれ、精神的にもあれ個人的たると社会的たるとを問わず、食物に支配されているのである。我々は食物あるが故に生まれ、生み、成長し、行動し、思考し、不可解なるもの、自然、絶対、無限に到達することができるのである。さらに賢愚も、盛衰も、幸不幸も、戦争も平和も、強健
も病弱も全ては食物より来るのである」
 マクロピオティックが、この症状にはこれを食べれば良いというような民間療法に終わらずに、なぜ「食」なのかを広く伝え、先に挙げた問題点に留意し、現代社会とある程度折り合いをつけながら浸透していくならば、代替療法としても地球環境浄化策としても大きな礎となることが期待できるだろう。