扇風機
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 数年前の夏の出来事です。その晩も熱帯夜で寝苦しかった事をおぼえています。私の家にはエアコンもなく、ただ扇風機が熱気を振りまいているばかりでした。昼間、トタン屋根に吸収された熱がさらに人間を追い出さんばかりに扇風機を熱の凶器と変化させています。
 そんな環境でもなんとか眠れるものです。車にばかりお金を注ぎこんでいる以上は自業自得であるがゆえに文句も言えません。私は安らかとは言い難い眠りについていました。

 どれだけ眠ったでしょうか。突然、胸の上に何かがのしかかってきました。身体も身動きがまったくとれません。目をあけると、そこには扇風機がいました。
 最初は引っかけて倒れただけとも思いましたが、ベッドの上によっこらしょと持ち上がって倒れるわけがありません。それにこの異様な重さ。これはちょうど大人の人間くらいの重さです。そして私に向かって風を、しかも氷のように冷たい風を吹きかけていたのでした。
 金縛りというんですか。とにかく身体が身動きできないんです。そして目の前には冷たい風を送り続ける扇風機。身体の隅から隅まで冷えていくのがわかりました。
 なんとかこの状況を打破しようと身をもがくようにして金縛りを解こうとしました。そして幾度か試みた末にようやく金縛りがパッンといった感じで解けました。呪縛から開放された時、私は目を覚ましました。えぇ、どうやら夢の中の出来事だったようなんです。
 扇風機はいつもの場所で普通に回っていました。ただ、私の身体は普通ではありませんでした。身体は扇風機の風に冷え切っており、胸は締め付けられるような苦しさでいっぱいです。それは冷たいプールにいきなり入った時に胸がキュウッと締め付けられる感じになるのと一緒の感覚です。

 みなさんももうお解りと思いますが、扇風機にあたり過ぎて身体が冷え切り、このままでは心不全などで死んでしまうということを夢という形で具現化されたらしいんですね。一昔はよく扇風機のあたり過ぎで死亡した赤ん坊などが新聞の片隅に載っていましたが、あやうく現代において私も同じ過ちを犯しそうになったわけです。
 みなさんの家はたぶんエアコンなのでしょうが、いまだに扇風機の方は気をつけたほうがいいですよ。私もそんなことは赤ん坊や年寄りだけだと思っていたんですから。もしかすると、次に扇風機がのしかかるのはあなたなのかも知れないのですよ。


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