沼地
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 私の友達はとてもかわいそう。あんなになってしまって、もう戻ることは無いのかしら。

 あれは数年前のことでした。私達の住んでいる所には、昔から「出る」と言われていたトンネルがあるんです。まぁ、出る出ると噂されてても「出た」というのは無いですから、よくある噂話なんでしょうね。問題は、そのトンネルのすぐ傍にある沼地なんです。造成地に自然に出来た大きい水溜まりといったほうが正しいのかも知れません。
 私の友人と、その彼氏で肝試しにトンネルに行ったんです。適当に騒いでトンネルを抜けると、二人の車はその沼地へと道を曲ったのです。二人は車を降りると、そこでも幽霊が出る、出ないでふざけあってたらしいんですね。それで彼氏が記念撮影をしようと言ってインスタントカメラを彼女に手渡しました。彼は沼地の水際に立ちピースサインを決め、彼女がシャッターを押した瞬間に事件は起きました。フラッシュの閃光よりも速く、彼は沼地に落ちたのです。彼女は驚き、パニック状態になったまま車に戻り、慌てて家へと車を走らせたのでした。家に着くやいなや、私の所へと電話をかけてきました。ことの一部始終を聞いて、私は彼女に言ったんです。
 「たかが沼に落ちたくらいで何をさわいでるの。あんた、彼がびしょ濡れでかわいそうでしょ」
 「だって、私は見たのよ、この目で。あんなことがあって、私はどうしたらいいの!」
 彼女が見たもの。それは、シャッターを押す瞬間、彼の背後から伸びた無数の「手」だというのです。彼女は、その「手」が彼を沼地に引きずり込んだと言ってやまないのです。彼女はそのまま泣きじゃくり、電話を切ってしまいました。
 彼女の言うことが本当かどうかはともかく、彼氏の方も心配です。ちょうど私の彼も家に遊びに来ていたので、二人で沼地へと車を走らせたのでした。しかし、彼の姿はもちろん見つけることはできませんでした。

 それからの彼女は「手」におびえるようになり、やがて気がふれてしまいました。両親に病院へ連れて行かれたのも仕方ありません。彼女の撮った写真ですが、確かに「手」は写っています。でも、それは無数の「手」では無く、バランスをくずしたと思われる彼の宙を切る「手」だけでした。それと彼ですが、落ちた後、沼から這い上がると車と彼女が無いのに気づき、トンネルに戻って肝試ししている他の車に便乗して帰ったとの事です。そして、さっさと帰った彼女に腹を立て、電話の一つもしなかったのが余計に良くなかったようです。
 そんな彼ですが、こんな事も言ってました。
 「あの時はね、地面の硬い所に立ってたんだけどね。確かにシャッターを押すか押さないかの瞬間に、地面ごと引っ張られるような感じがしたな」

 かわいそうな彼女。でも、無数の「手」とは何だったのでしょう。彼女がああなってしまった以上、事の真相は得られそうもありません。


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