スポーツ選手は歯が命
- ミスター;
-
ねえ、ジェイク、向こうのカウンター席で話し込んでいるのは、もしかして野球解説者の田尾さんと江川さん?
- ジェイク;
-
ええ、お二人は昔からのお友達の様ですよ。
- ミスター;
-
ああ、ちょっとお話に聞き耳を立ててみましょうか。
- 聞き役男;
-
かなり、中日・巨人で何度も対決されてますよね。
- 江川;
-
やってますよ。
- 田尾;
-
江川はね、本当に言われてますけど、真っ直ぐとカーブしか無いピッチャーですよ。
- 聞き役男;
-
はははは。
- 江川;
-
田尾さん、無いってやめて下さいよ。
- 田尾;
-
しか投げないピッチャー。
- 聞き役男;
-
投げない。
- 江川;
-
投げないって言って下さいよ。
- 聞き役男;
-
投げられるけど投げない。
- 田尾;
-
だったんですけどね、それでいて癖がはっきり分かったんです。
- 聞き役男;
-
- 江川;
-
ははははは。
- 聞き役男;
-
ああ、カーブが来るな、って。
- 田尾;
-
うん、真っ直ぐが来るなってわかった時期があったんですよ。それを活用させてもらったんですけど、それでもね、やっぱり打てない時があるんですよ。調子いいと。
- 聞き役男;
-
来るってわかってても。
- 田尾;
-
いい球きてもね。狙ってる球が来ても打てない。江川のね凄さっていうのはねスピードじゃないんですよね。伸びなんですよ。150kmのボールでもね、プロのバッターって振り遅れないですよね。タイミングも合うんですけど、それよりも上にボールが来てるんです。ファールチップです。
- 聞き役男;
-
思ったより伸びているという。
- 田尾;
-
自分達の感覚で来たって判断する所からボールとバットがあたる間に、思った時より伸びがあるんです。だからバットの上っ面に当たっちゃうんです。
- 聞き役男;
-
その後、田尾さんは西武?
- 田尾;
-
中日に9年いまして、それから西武へ行って。
- 聞き役男;
-
西武に行かれて、西武にいらっしゃる間に江川さん辞められちゃったっていう?
- 田尾;
-
いやいや、まだいました。タイガースに行ってからね。
- 江川;
-
そうですね。
- 田尾;
-
辞める年に一回、話しましたもん。もうちょっとやれよ、って。
- 聞き役男;
-
え、田尾さん説得されたんですか?
- 田尾;
-
一回ね、ああいう話、一応ちょっとはかんでるんだよね。
- 江川;
-
ええ。
- 田尾;
-
ジャイアンツに行く前に一度、クラウンに氏名された時もね。
- 聞き役男;
-
クラウン・ライター?
- 田尾;
-
あの時も、野球やるならどこでも一緒だぞ、って言った事あったんですよね。
- 聞き役男;
-
いい先輩ですね。
- 江川;
-
お陰様で。
- 田尾;
-
でも、全然もう。
- 聞き役男;
-
話を聞いてない。
- 田尾;
-
聞いてくれないんです。
- 聞き役男;
-
ははははは。
- 田尾;
-
本当にね。
- 江川;
-
聞き分けの良い方なんです。僕はね。いや、思い込んじゃうんです。思い込んだらもう一直線ですからね。
- 聞き役男;
-
江川さんから御覧になって田尾さんってどういうバッター?
- 江川;
-
上手かったですね。打つの上手かった。
- 聞き役男;
-
打つの上手いって。
- 江川;
-
上手いけども、僕から見ると田尾さんて意地っ張りな所あった。
- 田尾;
-
意地っ張りだよね。
- 江川;
-
だから、このボール待っていたらそこのボールが来るまで打たないみたいな所ありましたからね。
- 田尾;
-
僕ね、自分が絶好調の時あるでしょ? そうするとね、今回は絶対江川の球、打てると思って打席に立つわけですよ。その時、いっつもやられるのがインハイのボール球なんですよね。そのボール球を一回ホームランしたいな、という気持ちが凄く強くて。
- 聞き役男;
-
ああ、うん、うん。
- 田尾;
-
追い込んだら絶対インハイに真っ直ぐ投げてくると思って待ってるんですよね。それ以外の球で、アウトコースのカーブでストライク取られて三振してもいいんです。
- 聞き役男;
-
はははは。
- 田尾;
-
これはもう、納得なんです。ああ、逃げたな。インハイにドンと来た球を打ちたいんです。で、絶好調の時に江川がそれを投げてきて打てなかったんですよね。
- 江川;
-
見えるんですよね。バッターボックスにいるとね。
- 田尾;
-
打てなくてね。やっぱり江川の調子良い時は打てないんだって自覚したんですよ。
- 聞き役男;
-
おおお。
- 田尾;
-
それからはね、その球を打ちたいがために自分のフォーム崩したんですよね。
- 聞き役男;
-
え? たった一人のたった一球のために?
- 田尾;
-
インハイのボール球を上から叩こうとしすぎて、それで崩すんですよ。その後、それからはもう、喧嘩するのは辞めようと。
- 聞き役男;
-
あの球に関わりあうのは辞めようと。
- 田尾;
-
江川が調子良かったら4打数ノーヒットでいいや、と思って。
- 聞き役男;
-
はははは。
- 田尾;
-
次の試合に打てた方がいいやって思って。それからはね、あんまりムキにならない様にしましたね。
- 聞き役男;
-
一回はムキになって。
- 田尾;
-
ガンガン行った時があったんですけど。
- 江川;
-
僕から言うとインハイにボールを放るってそんなにいないわけですよ。
- 聞き役男;
-
うん、うん。
- 江川;
-
自分の一番いいボールだからね。なんでもかんでも投げているわけではないんですよ。そういう、田尾さんとか、掛布とか、バースとか、山本浩二さんとか、そういう人に対しては投げるわけです。だからよく、外のボールをコーンってヒット打って喜んでいる人がいるんですけど、それは僕、全然勝負してないから別にいいんです。
- 聞き役男;
-
- 田尾;
-
ははははは。
- 江川;
-
関係ないんだもん。だって。本当の勝負はインハイに行ったボールを打つかどうかって勝負だから。それが楽しいわけですよ。野球の楽しみって勝つばっかじゃなくてそういう一人、一人の楽しみってあるんですよ。
- 田尾;
-
あるよね。
- 江川;
-
これ打ってみて、見てみてってあるんですよ。
- 田尾;
-
野茂がやっぱり清原に対して真っ直ぐ、真っ直ぐで行ったみたいなね。こだわりってあるんですよね。江川を打つのはね、ランナーがいない時なんですよ。ランナーいない時は軽く投げてきてるんですよね。得点圏に来てからなんですよ。彼が必死になるのは。
- 聞き役男;
-
しょうがね〜。
- 江川;
-
しょうがない、って何言ってるんですか。それがピッチャーなんだから。
- 田尾;
-
だからランナーいない時、ランナー一塁まではいいんですよ。ランナー一塁までの江川の時は絶対ちょこんと打つヒットでなくて一発狙いで行った方が有利なんです。
- 聞き役男;
-
ああ、そうか。
- 江川;
-
いいんです。分かっても。もう終わったから。
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