養殖記 

2002年度


まずは中国・広東省湛江へ

 すっかり中国にはまってしまい、昨年7月から上海で商売を作ろうと活動をしてきて、ノコギリガザミ、上海蟹の輸入などもやってはみましたが、利益が出る仕事にはなりませんでした。
 これは、私も水産にこだわっていては仕事はできないと、もともと好奇心旺盛な性格もあって、とりあえず、興味のわくものは何でもやってみようの精神で農業関係にも足を突っ込みました。昨年12月には、農業の専門家と企画した「上海バイオ農業観光ツアー」という上海農業科学院などを見学するツアーを組み、日本からは3人と上海での参加2人の計5人のお客さんを迎え、農業技術士の伊達さんをコーディネーターとして3泊4日の見学を実施しました。
 一番右の写真は、農業科学院での見学の案内をしてくれた王さんです。なかなか素敵な美人でありました。右でニヤケているのは、恥ずかしながら私です。

 この12月に私は一足先に上海へ飛びましたが、その機中でとなり合わせたHさんと仕事の話をするうちに、お互いが今後やりたいと思っていたことに接点が次から次からでてきて、とりあえず、エビやカニの身を剥いた後の殻などを微粉末化して商品開発をしようということになりました。この時、私の念頭にあったのは、昨年3月に訪ねた、広東省の湛江市のTさんの冷凍エビ工場でした
 年末に帰国し、1月になってそのTさんにエビの粉末を作るための原料のサンプルの提供を依頼し、快くOKしていただき、1月にまずは湛江へ行くことにしました。この話を友人のKさんに話したところ、彼も湛江のエビ養殖の現状を見てみたいというので、上海で落ち合い一緒に湛江へ行きました。
 Tさんとは10ヶ月ぶりの再会で、工場は昨年9月に完成して11月ぐらいから試験操業に入り、今年の5月ぐらいから本格的な操業になるそうです。工場は、HACCPの基準に従い、食品の安全性に気を使ったシステムで操業されており、私たちのように活エビを扱っている人間にとっては、その設備投資だけでも大変なものだろうと感じました。
 湛江地区のエビ養殖は、ほとんどが「南美白対蝦(P. vannamei)」で占められ、昨年度は7万トン、今期は14万トン以上になるだろうとのことでした。
 おりしも、湛江に滞在中、Tさんの所に入ってきたFAXで、ヨーロッパで中国産冷凍エビから抗生物質が検出され、輸入が禁止されたとのニュースを知りました。予防的に抗生物質を投与するのは百害あって一利なしですから、中国の養殖技術者の意識改革が必要だとこの時強く感じました。
 湛江では、冷凍工場、エビ養殖場などを案内していただき、Kさんも自分たちが作るならこういう池が欲しいというのを目の当たりに見て、かなりのインパクトを受けたようでした。
 一番右の写真は、湛江の街中の市場で売られていたカニです。ハサミはすべて取られていました。オオギガニの類かとも思いましたが、まだ名前はわかりません。

 上海ー湛江は途中広州で飛行機の乗り継ぎがあり、以前からメールのやりとりをしていて、一度会いたいと思っていたAさんが広州にいるので、帰りには広州の飛行場でAさんに会う手はずにしました。
 Aさんは、中国で10年間、EM(有効微生物群)技術やそれを利用しての自然農法の普及をしてきている人で、水産方面でもEMの活用が普及してきており、エビ養殖の分野でのEMの活用に関しての試験に対するアドバイザーとして私の力を借りたいとの申し出がありました。とりあえず、今後どのように関係を持つか、メールを通して話し合うことにしました。この時はAさんが顧問をしている会社の社長など3人の中国人もいっしょに来ていて、1時間足らずを空港のレストランで交流することができました。(2002.04.17)


●久々の台湾訪問

 昨年6月に「浜名湖地域で魚の養殖をしたいので力になってもらえないか」という話があり、その後しばらく話は消えていたのですが、12月になって、具体的に事業化するとの話が再度持ち込まれ、私はコンサルタントとして係わることになりました。今年はまず小規模に試験養殖をすることになり、稚魚の手配と養殖方法の視察もかねて、台湾の高雄へ行くことになりました。
 台湾は10年ぶり、高雄は13年ぶりの訪問です。この数年は中国本土での数ヶ月ごとに変貌していく様を眺めているので、高雄が以前とどれくらい変わったのか、あまりピンときませんでした。
 3月8日、名古屋空港から台北で乗り継ぎ、高雄へと向かいました。高雄空港には、台湾とは約30年かかわっておられるS先生と種苗の手配をお願いしているTさんに出迎えていただき、何ヶ所か視察してから、東港という所にある水産研究所で1泊しました。
 この研究所は台湾のエビ養殖研究の中心的な役割を担ってきたところで、私も1度は訪れてみたいと思っていました。今回はS先生のお取り計らいでそこのゲストルームに泊めていただきました。翌日は日曜日で研究所にはあまり人がいなくて、S先生に場内を案内していただきました。かなり広い面積に研究棟がいくつもあり、飼育設備もたくさんありましたが、先の地震の影響で予算が復興資金にいってしまい、研究予算がけずられて思うように施設を使えないのが実情とのことでした。
 ここは、エビ養殖のメッカらしく、建物には図案化されたエビの姿がみられますが、ゲストルームのシャワー室のタイルにもエビが描かれていて、この研究所のエビに対する思い入れを感じ、同じエビ人間としてはとてもうれしく思いました。
  東港という街は、漁業の街で、クロマグロ、サクラエビ、カラスミが3大特産物だそうで、左から2番目の写真のように「桜花蝦(サクラエビ)」の加工工場もありました。

 高雄地域では、エビ養殖はすでに止めてしまった所が多く、現在はハタ類の種苗生産、養殖が盛んでした。
 左から3番目の写真は「大脚蝦の化石」で、高雄にある、昔蒋介石が作った対原爆用防空壕を利用して作られた水族館に陳列されていたものです。
この水族館はこじんまりしていて、大水槽はないですが、魚類だけでなく、サンゴや甲殻類なども展示されていて、化石などもたくさんコレクションされておりけっこう楽しめました。
 11日、帰りの飛行機までには時間があったので、街中の市場などをブラつきました。市場で一番目についたのは、一番右の写真のようにサバヒー(ミルクフィッシュ)でした。
 今回は、トコブシの籠養殖や粗放的なハタの種苗生産、ワムシの施肥によるほったらかし生産など、いろいろな養殖場や種苗場を視察でき、日本にはない、ユニークな発想による生産現場をみることができ、きわめて有意義な訪問となりました。(2002.04.18)


●EMとの出会い

 1月に湛江へ行った時、上海への乗り継ぎのため広州の飛行場で時間があったので、以前からメールのやりとりをしていた広州の安達さんとお会いすることができました。安達さんは中国でEM(有効微生物群)技術とそれを使っての自然農法の普及活動をすでに10年間行なってきている人です。
 エビ養殖の世界では、微生物資材の養殖池の環境改善への使用について、以前から商品化された多くの資材が試されているのですが、日本国内では、はっきりとした効果があるものとして定着したものにはなっていません。
 これまで、私のところにも数社から微生物資材を使って養殖をしてもらえないかとの話はきていたのですが、とりあえず、資金的な余裕がなかったこともあり、すべておことわりしていました。
 今回、広州でお会いしたとき、安達さんといっしょに、彼が指導している中国の会社の人たちとも会い、今年、EMを使ってのエビ養殖試験を広東省で行なうので、それのアドバイザーになってもらえないかとの話に発展しました。ただ、私も経済的には苦しい立場ですから有償であればということでこのプロジェクトに係わることになりました。

 3月16日にまず上海へ飛び、雑用を済ませ、18日から4月1日までの約2週間、広州市とその周辺のEMを使っている養殖場や養豚場、乳牛牧場、生ゴミ集積場などを視察しました。
 一番初めに訪れたのは、広州から香港方面へ南下したところに位置する東カン市にある養豚場でした。ここは年間3万頭を生産していて、現在の在庫は1万6千頭、そのうち1000頭にEMを混合した水を試験的に飲ませているとのことです。養豚している現場は防疫のため入れてもらえませんでしたが、糞尿の処理をしているところを見ることができました。
 糞尿が流出してきている所は、若干匂いましたが、これも1/16の頭数だけにEMを混ぜた水を飲ませているだけなので、全部に飲ませればその悪臭も消えるとのことでした。糞尿は、始めに、固形物を沈殿させ有機肥料として農家に引き取られていき、液体は大きな池3池で順次滞留発酵させ、3つ目の池の水を液肥として野菜畑に導入することで有効利用が行なわれています。一番右の写真は、以前は2つ目の池からの水が流されていた水路ですが、今は止められ、わずかに流れているだけになっており、水は透明で、トンボもいるくらい、ずいぶんきれいに浄化されていました。
 EMを飲ませて養った豚の試食もありましたが、脂肪層が薄く、肉も柔らかくて臭みもなくおいしい肉に仕上がっていました。
 とりあえず、最初の訪問地で、EMの効果を実感することができ、興味はいっきに深まりました。

 3500頭以上の乳牛が飼育されている乳牛牧場でも糞尿の消臭効果では大きな成果をあげていました。
 ここでは、牧草やフスマをEMで発酵させた飼料を乳牛に食べさせているだけですが、牧舎や糞尿の堆積場、滞留発酵池など、本来ならかなりの悪臭があっても不思議では無い場所でもまったくといっていいほど匂いがありませんでした。
 糞や尿を直接鼻に近づけて匂いをかいで見ましたがそれでもほとんど匂わなかったので、これはすごいと感じました。おまけに、糞の堆積場で匂いをかいでみると、臭いというより、EMを培養する時に使われる糖蜜の甘い匂いがあって、驚きました。

 悪臭を消す効果は、広州市内のゴミの集積場でも成果をあげていて、生ゴミのいやな匂いはまったくなく、ハエもいなくて、清潔感がありました。
 水産養殖の現場としては、エビ(南美白対蝦;P. vannnamei)養殖の種苗生産場と養殖場、チョウザメの養殖場、スッポンの養殖場、ウナギの養殖場、金魚や熱帯魚の養殖場などを視察できました。
 EMを混ぜた飼料で飼育されたチョウザメとスッポンは試食もできましたが、初めて食べるチョウザメのサシミはさっぱりとしたきわめて淡泊でおいしい身でした。スッポンは臭みがなく、けっこうパクついてしまい、その日はずっと、やけに体がカッカとしてスッポン効果を体感しました。

 上の一番左の写真は、今年から事業を始めたばかりの種苗生産場で、飼育水や飼料にEMを使うとのことで、とりあえず、使わない池との比較試験を始めた所です。
 右2枚の写真は竹で組んだビニールハウスでのエビ養殖です。4000平米ぐらいの池でもこうして竹を組んでビニールハウスを作ってしまうパワーには頭が下がります。夏はビニールははずしてしまうとのことでした。

 上の写真は3年前ぐらいから広東省や海南島で流行しはじめたコンクリート・砂底タンク方式のエビの養殖場です。
 一番左の写真は、底に水漏れ防止のビニールシートが張られているところ、真ん中の写真は、砂が敷かれたところ、右の写真はすでに生産をしている所です。中央排水、全面砂底、壁面はコンクリート張り、池底の位置は満潮線より高い位置にあり完全に排水して乾燥させることができ、私が考える理想のエビ池です。
 こうした池では、今のところウイルスによる大きな被害は出ていないとのことですが、1月に湛江の市場で病気にやられているのではないかと思われる南美白対蝦と斑節対蝦(ブラックタイガー;P. monodon)を買って、冷凍して日本に持ち帰り研究所でチェックをしていただいたところ、すべての個体がホワイトスポット症候群の原因ウイルスを保持していましたから、発病の危険性は常にあると考えられます。
 そうした情況下で、EMによるウイルス病の発生の防御ができるのかどうか、今年度は自分では日本ではできえなかった大規模な実験にかかわることができ、エビ屋としては幸運に恵まれたと感じています。
 今回お会いしたEMを使い始めている中国の人達が、その効果を心から認めていて、私自身も、エビ養殖でのウイルス対策としての効果はこれから一緒に見ていくことになりますが、畜産や生ゴミでの悪臭除去や汚水浄化での効果を目の当たりにして、微生物の持つ力を実感できました。
 私の友人が「ナベさんは、毎年違う情況を生きているからなあ」と嘆息していましたが、今年はエビ養殖から引退かと思っていたところ、幸いにも今年もまたエビ養殖に係わり続けることができるようになりました。感謝!感謝!(2002.04.19)


●なぜかクアラルンプール

 今年は、安達さんとの出会いから、私の人生にまた大きな転換がやってきました。
 この8月6日からマレーシアのクアラルンプールで仕事をしています。
 本当に人生何が起こるかわかりません。

 4月に広州から帰ったあと、草ぼうぼうになった養殖場の草刈をして、安達さんから伝授されたEMを使っての雑草の有機肥料化や、安達さんの後輩のIさんから伝授のボカシ団子を使っての排水路などのヘドロの浄化などのテストを始めました。
 ヘドロの浄化は、確かな手ごたえがあり、詰まりぎみだったシャワー室の排水口から、100倍にうすめたEM液を流していたところ、1ヶ月ぐらいしてズボッという音とともに開通したので、ますます、「これはいける!」と、米糠にEMと糖蜜をまぜて「ボカシ」を作り草木の肥料にしたりと、実際にEMの可能性をいろいろ試していました。

 6月に入って、広州の会社が関係しているエビ養殖は順調との知らせはあったのですが、具体的なデータはどうもとれないような感じで時間が過ぎていきました。
 そんな時、以前上海の空港で知り合った、岐阜の中小企業の社長のSさんから、「中国で工場を作りたいが、以前話していた、浙江省の寧海の工業開発区のことを詳しく教えて下さい。」と電話があり、雄踏町まで訪ねてくれました。6月下旬にはSさんが中国へ行くので、そのときに、寧海へも実際に行ってみたいということで、私も久々に上海へ行くことにしました。
 そんな日程を組んだ矢先、広州の安達さんから「マレーシアへ行きませんか?」と突然電話が入りました。
 話をよく聞けば、3月に広州へ行った時に会った、安達さんの香港人の友人のKさんからの話で、彼が新しく作る会社の水産部門の顧問になるということでした。
 現在、日本国内でも魚の養殖の顧問を引き受けているので、掛け持ちがOKであればということで、6月下旬に上海へ行くついでに広州まで行き、契約条件などを相談しようということになりました。

 6月24日に上海へ飛び、一足先に中国に来ているSさんと上海の虹橋空港で待ち合わせ、上海の部屋の大家さんのNさんの事務所で、Sさんの通訳をしてもらうためのJさんを紹介してもらい、26・27日と寧海を訪問しました。
 寧海では、私の中国人の友人であるCさんの取り計らいで、工業開発区を視察し、Sさんは寧海の人達の人柄や、街の雰囲気も含めてすっかり気に入った様子で、気分的には95%寧海進出を決めて上海へ戻りました。通訳をしてくれたJさんも日本に6年いて上海へ帰ってきたばかりの人で、日本語のボキャブラリーも豊富、人柄も良いとの印象で、SさんはJさんを中国の駐在社員として雇うことになりました。
 今回の経験で、中国へ進出したいがコネも方法もわからないという中小企業の社長さん方の夢を実現するためのお手伝いをするコンサルタントの仕事もできる、という自信がつきました。
 Sさんが日本へ帰ったあと、私はKさんとの契約の話を詰めに、7月4日に広州へ飛び、安達さんにまたすっかりお世話になり、Kさんとの契約の話もまとまり、上海へ戻りました。
 今回の契約で、日本とマレーシアの掛け持ちになり、今までのような自由な時間はもう持てなくなるようなので、上海近郊を見て回ってから7月19日に一旦帰国しました。

 国内でも今は仕事もあり、けっこう忙しい日々を動き回り、8月1日からのKさんの会社との正式契約をするために7月30日、今度の仕事の本部になる香港へ飛びました。
 香港では、また安達さんが空港まで迎えに来てくれて、彼の香港の宿舎に泊めていただきました。8月1日Kさんが香港に戻り、彼の新会社のスポンサーで、実質的なオーナーとなる香港のC社へ行き正式な契約を結びました。そして、8月6日、Kさんと一緒にマレーシアのクアラルンプール(KL)へと飛びました。
 KLでは、世界一ののっぽビル、ツインタワー近くのビルに入っている会社の顧問としての仕事がはじまりました。これまでもクウェートやタイ、沖縄、浜名湖など、自分が思っても見なかった場所での仕事をしてきましたが、まさかマレーシアで仕事をすることになるとは、本当に明日のことがわからない人生というのも捨てたものではありません。

 20年くらい前、いろいろなものに逆らって、自分が好きなように生きているんだと思っていたのが、実は誰かの手のひらの上で生かされているんだと気がついてから、人生の流れに逆らわずに生きるという術を身に付けました。
 「人間50年」とすれば、私も今年の4月で1つの人生を終え、これから2度目の50年を生き始めることになるのでしょうか。
 30歳のころ、エビや魚でのビタミン剤の効果を目の当たりにして以来20年間毎日総合ビタミン・ミネラル剤を飲み続けてきた効果か、年齢より若く見られますが、昨年にはひょんないきさつから「冬虫夏草」という不老長寿のキノコに出会い、培養された製品は安く手に入るので、11月から毎日飲み始めました。はたして不老長寿をまっとうしてあと50年生き直しができるのでしょうか?(2002.08.26)


●中国海南島と広東省番禺でのエビ養殖現場復帰

 9月始めに一旦帰国した後、日本国内での仕事をこなし、中旬に香港経由で中国の海南島の南端に位置するサンヤに飛びました。
 今回、私が顧問として働くことになったM社は中国江西省南昌市の生ゴミ処理のプロジェクトをメインに仕事を始めましたが、そこで用いられる微生物資材は環境ビジネスだけではなく、農林水産業などにも広く応用できるので、私は水産部門での応用を担当することになりました。まずは私の本業でもあり、熱帯・亜熱帯地域での重要な産業でもあるエビ養殖の分野での応用と市場開拓を行なうのが当面の任務で、中国とマレーシアが今のところの活動範囲になります。

 昨年3月に湛江と海南島を訪れた時、コンクリートタンク式のすばらしい養殖池を目の当たりにして、こんな池で養殖してみたいと思いましたが、その思いがかない、サンヤ郊外の養殖場の一角を借りて、M社の微生物剤を適用しての南美白対蝦(P. vannamei、エクアドルエビ)の無換水高密度養殖の実証試験の指導をすることになりました。私としては2年ぶりの現場復帰です。
 9月23日朝、養殖場近くの種苗場から稚エビが輸送され、スタッフ5人とともに池入れを行ないました。池入れ早々、24日夜から26日昼すぎまで台風が来て大雨を降らせ、水位が40cmも上昇しましたが、南美白対蝦は淡水でも養殖できる種類なので、池水の淡水化も恐れずにすみました。
 素潜りでの潜水観察も2年ぶりに始めましたが、錘がないため現地スタッフのアイデアでペットボトルに砂を詰めてそれを海水パンツに挟みこんでの素潜りとなりました。
 今回の試験は2池で行ないますが、とりあえず1池の池入れに立ち会ってから、9月30日に広東省の省都である広州の南東に隣接する番禺市という所へ向かいました。

 番禺市でのエビ養殖試験は、素掘り池での粗放養殖で、海南島での高密度養殖とは正反対の養殖方法での試験です。
 こちらでの養殖対象種は「麻蝦」と呼ばれるエビで、おそらくヨシエビ(Metapenaeus ensis)と思われます。このエビも海産のエビですが、淡水でも養殖ができ、今回の池はバナナ園の中にある淡水の溜池です。エサとしてはピーナッツオイルを搾ったあとの滓をメインにするということで、技術的にはそんなに集中力のいるものでもないので、10月2日と8日の2回の池入れに立会い、9日にまた海南島のサンヤに戻りました。

 サンヤの養殖場では来年1月の春節を取り上げの目標に養殖をしていきます。とりあえず南美白蝦で試験をして、成功すれば、ああしよう、こうしようとの夢は広がりますが、今はまず1回目の成功をめざしましょう。(2002.10.21)


●三亜(サンヤ)での養殖試験の経過

 10月24日〜11月3日まで日本での仕事や雑用をこなし、11月4日に上海へ飛び、5日に三亜に戻りました。
 私の不在の間は、安達君が池にはりついてくれて、メールや電話でやりとりして乗り切り、6日以降は私が池に張り付いて、これまで無事、養殖試験が続いています。
 途中、潜水観察でみつけた斃死エビにホワイト・スポットを確認した時は冷や汗が出ましたが、その後の斃死エビの出現情況は、今まで私が経験してきたような、あっという間の大量斃死は見られず、経過を観察し続けました。
 私が帰国しているときに、安達君から三亜でPCR法でウイルスの有無の確認をしてくれる会社があるとの情報が来たので、即見てもらうことにしました。その結果、2池あるうちのA池ではホワイトスポット症候群とタウラ症候群の原因ウイルスが、B池ではタウラ症候群の原因ウイルスが確認されました。
 従来方法としては、ウイルスの保菌が確認された段階で養殖の継続をキャンセルするのが一般的ですが、私達の目的は、飼育環境を整えることでウイルス病の発病を防ぐことができないか、という所にあり、ウイルスの保菌が確認されたことで、目に見えないウイルスの外からの侵入に対する心配がなくなったことで、かえって精神的には楽になりました。


 上ー右の写真は、私が顧問をしている会社製の微生物剤を散布しているところです。
 今回は、1週間に1回、池に散布しています。A池では2ヶ月間はまったく換水せずその後これまで3回20%ずつの換水をしました。B池は始めのうちは漏水が多く、注水量がA池よりは多かったものの、換水はこれまで1回だけです。この間、水色は緑と褐色の間で変化はありますが、透明度、pHは安定しています。日本でのように毎日換水するのではなく、これだけ長期間ほとんど換水なしで養殖できていますから、微生物の池環境の浄化に対する効果について大きな手ごたえを感じています。
 まだ1回目の試験の途中で結論的なことはいえませんが、ただ、従来中国で行なわれているように、水変わりしたり、エビの状態が悪くなってからその対症療法として薬剤を用いるように微生物剤を一時的に散布するような使い方は効果が無いと思われ、やはり池準備の段階から定期的に散布し良い池環境を保ち続けることが必要だと思います。
 とりあえずウイルス病の発病がないまま2ヶ月あまりが経過しました。私達と同じ日に同じ種苗場から買って池入れをした隣の養殖業者の池が、私達にとっての比較する対象区となったのですが、彼らの池では池入れ後20日あまりしてエビの状態が悪くなった時に、従来方法どおり畜産用の抗菌剤を散布し、その後エビの大量斃死をまねいています。意味無く消毒剤や抗菌剤、抗生物質を使用しても問題の解決にはならないということも確認することができました。

 元々、私は日本でも薬剤を使用しない養殖をしてきました。養殖というのは生態学を基本にしていて、私は生物学的環境のコントロールを主体にこれまで養殖をしてきましたが、物理化学的な池環境に対しては積極的な働きかけはせず、自然任せにしてきました。今回実際に微生物剤を積極的に利用することで、物理化学的な池環境に対しても積極的な働きかけを試み、手ごたえを感じることができました。私自身の養殖技術に欠けていた部分が補強されていくように感じ、今後の仕事が益々楽しみになってきました。(2002.12.16)


●取り上げ

 2003年1月28日と29日の夜、2池をいっきに取り上げました。
 始めは、左の写真のように、大きな電気地引網でエビを獲り、ある程度少なくなると三角手押し電気網で獲っていきます。
 こうした方法でも99%は獲れてしまうので、エビが池に残るんじゃあないかとの心配は杞憂に終わりました。

 エビは電気ショックでおとなしくなっていて、網からカゴに移した後、一旦氷で冷やした海水につけ、計量する場所に運びます。

 1カゴ15kgずつで計量され、活エビ輸送車ではそれを網カゴに分けて冷水槽に収容していきました。
 今回の買手は、このエビを広州まで運ぶとのことでした。
 こうした方法で取り上げ、運んだ場合、70〜80%の活き率だそうです。

 なにはともあれ、1回目の試験が終わりました。
 ホワイトスポット症候群やタウラ症候群の原因ウイルスを持っているエビでも、とりあえずは取り上げにこぎつけました。
 ただ、南美白対蝦の水温変化による摂餌量の変化が著しいことや、海南島での秋から冬の期間の水温がけっこう下がることなどは、実際に養殖してみるまでわからなかったこと、また海南島のエビ養殖では、ものすごい高密度でスタートしても途中で密度のコントロールをしないために私も密度コントロールができず、今回は思うようには養殖できませんでした。
 しかし、養殖期間をとおしてほとんど換水をしなかったけれども、pH、アンモニア濃度、透明度などは安定していて、今回試験した微生物剤の効果は認められたことは大きな成果でした。
 具体的な結果は、個人ページでは公にできませんが、近々私が顧問をしている会社のホームページが開設されますから、そこで公表することになると思います。
 
 3月から2回目の試験に入ります。
 次回は池の準備段階から微生物剤を使って、池底の処理をしたり、特製有機肥料による水作りをしたりと、有機認証エビを作るための試験を続けていきます。(2003.02.06)


●池干し後の底の状態

 今回用いた池の1つは、形がほぼ正方形で中央に排水口があり、コンクリート壁で底は全面砂と、私が考える理想的なエビ養殖池です。
 この4ヶ月で約7200kgの配合飼料が投入され、換水は15〜20%ほどを5〜6回だけですが、ヘドロは池中央にわずかに見られるだけで、全体的にはかなりきれいな状態を保つことができました。
 中央の排水で除去されたヘドロも多いが排水の回数は少なく、微生物の活躍でかなりの量は分解されていると感じられました。

 上の写真は底の砂をスコップで切り出した断面で、左から右へ3枚は池の中央に向かう。一番右の写真は中央のヘドロが残った場所。
 池の端から中央へ向かって2/3ぐらいまでは、表面の還元層はうすい。南美白対蝦は砂に潜るものがほとんどいないが、砂に潜る車えびを養殖すれば毎日エビが砂を掘り起こしてくれるので、砂はもっときれいな状態を保つことができると思います。

 また、南美白対蝦は強い雑食性で、池壁に着く海藻も食べてくれるので、池壁がよごれず掃除の手間がはぶけます。
 右の写真のように水車が回っていてエビが近づけない所には海藻も残っています。

 私にとっての激動の2002年度はとりあえず終わりました。
 一昨年の3月に海南島に見学に来たときに、すばらしい池を目の前にして、「こんな池で養殖できたらなあ」との思いが現実のものになりました。
 こうした人生を支えて歩ませてくれている友人達に、そしてこうした人生に新たに踏み出すきっかけを作ってくれた「ウイルス様」に感謝の念でいっぱいです。
 さあ、この大きな感謝の気持ちをパワーに換えて、来年度も頑張るぞ!(2003.02.06)


養殖記 目次

ホームページへもどる