養殖記 

1996年度


●稚エビの池入れ

 昨年育てたエビは12月いっぱいでほとんど出荷してしまい、冬の間は私も冬眠していたが、3月から池の整備をボチボチと始め、ようやく初夏となり、6月8日、いつも供給をたのんでいる宮崎県延岡にある松本水産さんから稚エビが名古屋空港まで空輸されてきた。保冷車をレンタルで借り、東名をとばして養殖場まで運びいよいよ今年分の池入れを行った。稚エビはビニール袋に海水とともに酸素詰めされ、段ボール箱に梱包され送られてくる(写真-左)。大きさは約1Cmほどで(写真-下の黒丸のなか)、これを水温が低下する10月下旬までに製品サイズに育てあげることになる。また半年、緊張感に包まれた毎日を過ごすことになる。今年は、例年より水温が低いので成長が遅れるかもしれないが、天の意に従って精一杯のことを日々行うしか私たち自然の恵みで生きている第一次生産者に出来ることはないでしょう。
 わたしは、この地へ来て5年目に入りますが、雨が多い年、猛暑の年、台風直撃の年、激寒の年と毎年気象条件が異なりそうしたなかで生き物を育てることの難しさを痛感しています。今年は、雨が少なく、気温の変動が大きいですが、沖縄の梅雨があけると同時にこちらは梅雨になり雨も降り始めたので、季節感はこの一年ぐらいはかえってはっきりしてきたような気もします。
 なにはともあれ、今年も無事生産できますように‥‥‥‥。(1996.06.11)


●1ケ月経った稚エビ

 6月8日に池入れをしてから早くも1カ月が経過した。私はこの始めの1カ月のエビの状態を観てその後の生産計画を立てるので私にとっては重要な1カ月です。
 今年の梅雨は曇り日や雨の日が多く、昨年に比べると気温が低いので養殖池の水温も20〜25℃と低い傾向にあったが、7月9日の体重測定では平均で1〜2グラムとまずまずの生長をしていてくれた。これが水温が30℃ぐらいですと2〜4グラムぐらいに生長するので半分ぐらいの生長スピードになる。生長に適した温度は成長段階で異なるようで「マキ」サイズになってくると20〜25℃ぐらいの方が生長スピードは速くなるようです。
 今週は台風5号の影響もあって大雨も降っているが、あと2週間もすると梅雨も明けて暑い夏がやってくるでしょう。そうなると水温も30℃を越え、稚エビもドンドン大きくなるので今度は高水温時の在庫密度の調整との闘いの日々になり最も緊張した時期を向かえることになります。(96.07.10)


●黄金色のクルマエビ

 昨年の年末までに10グラムに達しなくて冬を越したエビを5月からわずかずつではあるが取り揚げ出荷しているが、7月12日に取り上げたものの中に、体色が金色(オレンジ色?)に変異したものが1尾混じってきた。このようなエビはそんなに珍しいものでもないようで、毎年数10万尾池入れするうちに数尾は見られるので、こうした変異は10万分の1ぐらいの確率で生じていることになるのだろうか。体長20Cmの親エビは70〜80万個の卵を産むので、1尾の親からは数尾の色素の変異した 子が生まれているのだろう。たぶんこれも劣性遺伝のアルビノの部類であろうと思っています。
 いつもなら食べてしまうのですが、こうしたエビを飼ってみようという人が現われるかもしれないのでとりあえず池に戻してやりました。飼ってみたい方がいらっしゃればEメールでお知らせ下さい。(96.07.17)


●釣餌としてのクルマエビ

 「エビでタイを釣る」とは、よく言われることですが、ここ浜名湖ではサイマキサイズ(全長10Cm以下)のクルマエビが、釣りの餌としてよく使われる。釣りの対象になるのは左の写真(和地町の花園釣具店からお借りした)にあるクロダイやセイゴをはじめ、ヒラメ、マゴチなどがあげられる。浜名湖には、天然のクルマエビが生息し、特に、稚エビからマキサイズ(30gぐらい)までの生育場となっているため、古くからタキヤ漁などで漁獲されたもののうち、小さなサイマキが釣り餌として用いられてきた。ただ、天然の漁獲は天候に左右されるので、私の養殖しているクルマエビも使ってもらえるようになりました。ただ、釣り餌として使うことができるサイズは、3〜5gのエビで、10〜15日もするとそれより大きくなるので釣り餌として販売できるのは限られた期間しかありません。今年も6月に池入れしたものはすでに5gを越え、釣り餌の需要の最盛期であるお盆には、7月に池入れしたものが間に合うかどうか微妙なところです。現在の心境としては「Let it be」と言ったところです。(1996.08.05)


築地市場への出荷始まる

 お盆には台風12号の影響で「釣り餌」の需要も例年より少なく、7月池入れのエビが3グラムほどに生長していたので、なんとか間に合わせることができた。
 そして、6月に池入れした稚エビが10グラム前後に育ってきたので、8月18日から東京の築地市場への出荷を始めた。ここ浜名湖では、5月から10月の間は天然のクルマエビが漁獲されるので、地元ではほとんど需要がなく、その間の私のエビの売り先は築地がメインになる。
 日本国内でのクルマエビは、「活エビ」と言われるように、生きていてこそ価値が有ります。池や海から取り上げた時に生きていても、市場、仲買さんそして料理人が料理するまで生きていなければその価値はなくなります。そこで、どういった方法で輸送するかが大きな問題になります。クルマエビはオガクズの中で生きていてくれるとは言っても、ある程度の低温に保持できればいいのですが、 それを維持出来ない場合、オガクズでの輸送は難しくなります。特に、気温の高い夏には、オガクズでの輸送は大変困難です。幸い、ここ浜名湖は東京にも近く、以前より天然のエビを築地へ輸送する方法として、左の写真のように、電池式のエアーポンプを使った水輸送が行われているので、私も その方法で出荷しています。この方法ですと、輸送中の温度管理に気を使うこと無く、エビの活力が よければすべて生きたまま届くので安心です。
 これから冬のくる11月までエビを育て、在庫量の調整しながら出荷していくことになります。秋は、この在庫量の調整をまちがえると、エビの発病、大量死をまねくので最も緊張した日々になります。なんとか今年も乗り越えることができますように‥‥‥‥。(1996.08.24)


●水温との闘い

 今年は、気温の変動が大きく、養殖池の水温も安定しない。特に、8月28日には最低気温が摂氏20度をきり、気象台始まって以来8月では最低の気温との事で(左は1996.08.29、中日新聞の記事)、池の水温も21度まで下がった。昨年は、例年より3週間も早く冬がきて苦労させられたが、今年はもっと早く冬が来るのかと心配させられる。
 エビの養殖の場合、水温と投餌量、在庫量のバランスを維持するのが技術的なポイントだと思っています。しかし、投餌量と在庫量は自分の意思でコントロールできますが、水温に関しては、神さんの意のままで、私は毎日の水温の変動に一喜一憂しながら、水温と闘っているように感じられます。
 今年の夏は水温が30度を越えることが少なく、エビの生長も良好ですが、反面、在庫量が池の収容限度を越えるスピードも速くなるので10月いっぱいまで気を抜くことができません。本日31日は、また暑さが戻ってきたので冬が遠のいたと思いつつも、今度は水温の上昇が気にかかり、結局シーズンが終わるまで、ああだ、こうだと心配ばかりしていることになります。
 在庫量の推定は、昨年まで10日毎の集計を手計算でやっていたが、今年は、パソコンと集計ソフトのおかげで毎日の推定在庫量がつかめるので重宝しています。特に、出荷が始まると、毎日取り上げと移放があるので、池からのエビの出し入れがあり、それらの集計が即座にでき、在庫量も計算してくれるので、本当に有難い事だと、パソコンを造ってくれた人に感謝しています。(1996.08.31)


●今は、もう秋

 先々週の晩秋のような冷え込みから打って変わって、この1週間は日中の残暑とともにすっかり例年の初秋のたたずまいでした。もうセミの声は聞こえなくなり、夕方と早朝はコオロギなどの虫の声が大きくなりました。日暮れには、虫たちの大合唱となるが、セミのようにうるさく感じないのは何故だろうか。
 浜名湖の沿岸は、週末ともなるとハゼ釣りの釣り人たちで賑わっています。左の写真は雄踏町営の亀崎公園の歩道にはめ込まれている浜名湖を代表する水産物のプレートの内の一枚です。
 今年の夏は、釣り餌用のエビの需要が昨年の半分しかなく、養殖池にはたくさんのエビが残っているので、9月に入って在庫調整のための間引き出荷に大忙しとなりました。水温も26℃前後と生長にはちょうど良い温度で、生長と取り上げの追いかけっこで「秋を眺める余裕もなく」、これから10月下旬までエビを殺さないよう大変な毎日が続きます。出荷で忙しいのは勿論良いことなので、毎朝「さあ、頑張るぞ!」と気合いをいれています。さあ、あとは待った無しの4カ月だ!(1996.09.07)


●冬が来た

 9月,10月は、私は、エビの間引き出荷に追われ、妻と子供たちは、運動会、秋祭り、町民体育祭、七五三など毎週末のように行事に追われ、アッというまに過ぎてしまいました。
 今年は、8月以降、涼しい日々が続き、9月30日には昨年より25日も早く養殖池の水温が18℃まで下がり、その後も20℃を越える日はほとんど無く、低温傾向が続きました。10月26〜27日には 強い北西風が吹き、水温が13℃と冷え込みましたが、その後は、穏やかな暖かい日々が続いています。
 クルマエビの生長は、水温が25℃前後が適しているようですが、この10月は18〜20℃と低かったので生長の伸びが期待したよりは少なく残念であったが、飼育管理はしやすかったので、今年も病気の発生もなく、無事、冬を向かえることができました。
 左の写真は11月4日に撮影したものですが、6月に池入れした1cm程の稚エビが立派なマキエビに仕上がりました。これから水温が下がり、クルマエビの甘み成分であるアミノ酸のグリシンが最大量になるので、味の「旬」を向かえます。天然のクルマエビは冬には漁獲できないので、クルマエビの旬と言えば、夏ということになっていましたが、エビの養殖が行われるようになって、冬にもクルマエビを味わうことができるようになり、食品成分の分析がなされて、味の旬は冬であると確認されたようです。私は、元来南方指向で以前はクルマエビも沖縄でしか食べたことがなかったのですが、この地へ来て、12月の冬眠に入ったばかりの、まるで砂糖で味付けしたかのような甘いエビを食べた時は心底驚きました。北方の冷たい海の魚介類の方がおいしいとよく言われますが、私としては納得できた次第です。
 これから気温も20℃をきり、生きたままのオガクズでの輸送も確実にできるようになりますので 一般の方にも販売いたしますので、メールもしくは電話(TEL 053-592-1839, FAX 053-592-9518)でご連絡下さい。(1996.11.09)


 

●池干し

 早、年も変わり1997年となりました。昨年は、どちらかといえば、冷夏暖冬の傾向でクルマエビを養殖する者にとっては、仕事のやりやすい半年でした。しかし、ここ浜名湖畔では10月の低温によるエビの生長の停滞がひびいて予定の生産量には若干届かなかったのが残念でした。とはいえ、 12月は暖かい日々が続き、20日まで水温が10℃前後であったのでエビの取り上げがやりやすかったのは、池の水面が凍るほどの寒波にみまわれた一昨年の年末に比べれば、幸運であったと言えます。
 エビの取り上げは、普通は“エビ篭”と呼ばれる漁具で行いますが、これでの取り上げは、エビが活動できる水温8℃までで、それ以下になると変温動物であるクルマエビは、不活発となり底の砂泥の中に潜ったまま冬眠に入るようなので、池の水を抜き、干上がったところで、電気ショックによって飛び出してくるエビを拾うことで取り上げを行います。しかし、水温が5℃以下であったり、気温が低いと、飛び出してくるエビは稀で、ピクッと動いたところを、思い出しながら掘り出していかなければならないので、何尾も動くとまるで神経衰弱をやっているような気になります。
 左の写真は右のオバアさんが“電気棒”を突くところで、両者とも突いた先のエビの動きを見逃すまいと池底をみつめているところです。
 池干しを始めると、右の写真のように、待っていたかのように野鳥たち、特にサギ類のコサギが群れをなしてやってきます。ただ、彼等のお目当てはハゼやコエビ類で、潜砂しているクルマエビを掘り起こして捕食することはしないので安心です。勿論、弱って砂上に出ているものは狙われます。が、クルマエビの体色はあれで、小石まじりの砂の上では保護色になっていて、何十羽もコサギがいてもけっこうクルマエビは食われないまま砂の上に横たわっています。
 今まで池干しの時にやってくる野鳥は、コサギ、ダイサギ、アオサギ、カモメの一種、そして、カラスが観察されています。さすがにカラスは頭がいいようで、完全に潜砂していないクルマエビを発見し、掘り起こして食べていました。
 12月31日で“マキ、サイマキ”サイズのエビは売切ったので、残ったものは越冬して次の春から夏に取り上げることになります。病気の発生もなくシーズンを終わることができたことを感謝して お正月を向かえることができました。(1997.01.07)
 


●寒波襲来とクルマエビの越冬

 比較的暖かな日々が続いていたが、20日に大寒を向かえたとたんに、21日から22日にかけて 寒波がおしよせてきた。左は22日の中日新聞の朝刊の記事だが、浜松は氷点下4.3℃まで下がったとの事で、私の養殖場の露地池では氷が張り、地上にでている塩ビの水道管は派手に破裂しました。
 年末ではまだ小さかったエビを残して越冬中の池は屋根がついているので、早朝の放射冷却が無い分水温の低下は和らげられ、4〜5℃で下げ止まりなんとかエビは無事であろうと思います。
 一昨年の年末には、こうした寒波が池を干しながら露地池のエビの取り上げをしていた12月28日にやってきて、取り残していたエビを殺してしまったことがあり、随分がっかりしましたが、今年はすでに取り上げを終わった後なのでホッとしています。
 クルマエビが低温に耐えられる下限は一般に5℃といわれているので、ここ浜名湖畔での露地池での越冬はかなり難しいと思われます。昨年テストした越冬の結果では、池底が地面より掘込んである池では水深が50Cmほどでも、砂中に潜って冬眠しているエビは地熱の効果があるためか50%ほどは春まで生き残りました。ところが、池が掘込んでなく、池壁が盛り土をしてあり池底のレベルが高い池では地熱の効果がないためか春までに全滅しました。この経験があったため、昨年度は、越冬は考えず出来るだけ年末で取り上げを終わることを目標にしました。
 また、クルマエビの温度耐性の下限が5℃というのは私達が宅配便をつかってエビを発送する時に5℃保冷のクール宅急便を使えない理由です。5℃保冷ということは、誤差を考慮すると1〜6℃ぐらいに保冷されているようで、送り先に着いたときには凍死もしくは仮死状態で、一般家庭では、届いた箱を開けた時にピョンピョンと飛び出してくるエビに、ビックリ箱を開けたときのような驚きと感動がなく「全部死んでいる」という印象が強くなってクレームのつく大きな原因になります。実際、私が沖縄で養殖をしていたときにそうした経験がありました。そのため、私は宅配便を使うときはあえて普通便を使っています。(1997.01.24)

 


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